沖縄から


 

昨年の夏、急に思い立って沖縄に向かいました。およそ10年ぶりのことでした。

10年前の私は、幸運にも沖縄が誇る染色「紅型」の本の編集に関わらせてもらっていました。紅型の作者は、第二次世界大戦で焦土と化した沖縄で、途絶えてしまった琉球紅型の復興を成し遂げた城間栄喜さんのご子息。栄喜さんの心と技を引き継いだ城間栄順さんです。

取材のために沖縄に何度か通い、栄順先生が営む「城間びんがた工房」で、沖縄が誇る伝統的な染色「紅型」をつくる人たちに出会いました。工房の中には長い反物が張り巡らされ、とても専門的で繊細な染めのための役割が複数の人の手によって担われています。型染めのための型彫りも染めも、手づくりの道具で手作業で行い、気の遠くなるような緻密な工程を積み重ねて、美しく上品、愛らしくてモダンな絵柄は描き出されて行きます。それは見ているだけで息を止めてしまうような仕事です。

若い人たちからベテランまで、全国から伝統工芸を学ぶために多くの人たちが集まる工房では、いつも栄順先生と奥様の勝美さん、そしてご家族もスタッフと一緒に仕事をしています。午前と午後には暑さでばてないためなのか短いおやつタイムがあって、栄順先生が海で釣って来てくださったグルクンなどの小さな魚を天ぷらにしたものや、地元の素朴なお菓子などを、先生を中心にスタッフ全員で床に車座になっておしゃべりしながらいただきます。そのおやつの美味しさと人懐っこいスタッフの笑顔は今も忘れられません。

紅型の工程には、屋外で水を使って行う作業もあるので、エアコンのきいた屋内と暑い屋外を行ったり来たりしながら作業は進みます。みんな裸足にサンダルかゴム草履、半パンにTシャツ姿、それが私にはすごく新鮮に映って、ものづくりの現場に流れる自由で心地よい空気を強く感じたのを覚えています。

今回の沖縄行きで栄順先生の工房を訪ねた時、奥様が私のお店が出来たお祝いに、「好きなもの持って行きなさい」と額装用の紅型を譲ってくださいました。

「あなたのお店に飾りなさい。売れなくていいからね〜、もし売れたらお金を送ってもらおうね〜」と笑顔で作品を預けてくださいました。ウチはカジュアルなお店ですから、「無理です、手に負えません」と何度も辞退しましたが、「見てもらうだけでいいじゃないの〜。お客さまに見てもらおうね〜」と。ご長男のお嫁さんが、「ほんとは平岡さんにあげたいのよ。でもそうも行かないから、気にしないで持って行って」と言ってくださって・・・。

お預かりした作品は全部で6点、伝統的な縁起の良い柄や城間栄順先生の真骨頂とも言える愛らしいハコフグや熱帯魚などのオリジナルな図柄、そして奥様が大切に育んでいる藍で染められた作品などが下張りを終えてお店に届きました。

紅型というと首里城などで見られる黄色い踊り衣装がよく知られていますが、実際にはまだ戦後再現されていない絵柄も含め、繊細で美しい絵柄や沖縄の風物を描いた楽しい作品など、絵柄も色彩もたくさんの表現方法があります。“うちくい”という大判の風呂敷や舞台幕など、勢いよく手描きで描かれる”筒描き”という技法の作品も、ふだんはなかなか目にすることはありませんが、華やかで勢いがあって素晴らしいものです。

遠く海の向こうにある伝統工芸「紅型」をもっと身近に知っていただきたい。好きになっていただきたい。そして私は沖縄ともっと親しくなりたい。そんな気持ちはこの10年消えることがありませんでした。

10年経って私の思いが叶ったのか、当時編集を手伝ってくださった栄順先生のお弟子さんで、現・沖縄県立芸術大学教授の渡名喜はるみさんと再会。ワイワイと盛り上がって、トントン拍子で芸大で染色を学ぶ大学院生の卒業作品展を、今年の3月にウチのお店で開催することが決まりました。この展開には我ながらびっくりでしたが、渡名喜さんの沖縄らしいおおらかで気持ちのいい情熱の渦に巻き込まれてしまったようです。どんな作品が届くのか、本当に楽しみです。

城間栄順さんの作品は、2月11日からの「ふたり展』までご覧いただけます。以降は、作品展などイベントのタイミングを見て展示を再会する予定です。一応お値段はつけていますが、それは気にせず、ぜひお気軽に本物の紅型に合いにお出かけください。

沖縄県立芸術大学の大学院生の作品展は、3月11日(土)から20日(月・祝)まで開催の予定です。沖縄で染めを学んでこの春全国へ旅立つ学生たちの、学生として最後、社会人としては初めての作品展になります。こちらのイベントの詳細も順次お知らせいたしますので、ぜひお楽しみに。