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vow's space インタビュー

イワウチマリコ(日々図案室)さん

聞き手◉平岡京子(vow's space)

iwauchi


身の回りの愛着あるものを描く

 ずっと、イラストレーションを何かの方法で表現したいと思っていました。パソコンでいろいろなデザインをすることを仕事としていましたが、ソフトをうまく使えるだけでは…と、何となくコンプレックスを感じていました。
 そして、職人になりたい。1から10まで自分の手で仕上げたい。そこから生まれる達成感を感じたい。そんなことをいつも思っていたような気がします。
 自分の手で作りたい。そんな気持ちであれこれ方法を探している中で、木版画と出合いました。先生となってくださったのは、「木版画アトリエ 空中山荘」代表の木版画家、ふるさかはるかさん。先生の作品に出合い、木版画をどうしても自分の技術にしたいという気持ちで教室に通い始めました。
 「まずは何かをデッサンしてみたら?」と先生に言われたのですが、何を描けばいいのかわからなくなってしまいました。何か、すごいモチーフを見つけなければならないと思い込んでいたんです。そんなとき、先生が「(モチーフは)家の中にあるものでいいんだよ」とアドバイスしてくださって。
 それで、いつも家の中にあるポットを描いてみたらとても楽しくて、この毎日使っているポットのことが、すごく好きだったんだと気づきました。同時に、絵や作品作りへのハードルが、自分の中ですごく高かったことにも気づいたんです。「描くものは何でもいいんだ」、そう初めて納得できた瞬間でした。
 身の回りのものを見つめるようになると、普段使っている行平鍋の打ち目や、すり鉢の櫛目、茶碗やスプーンなど、どれもがすごくおもしろくて、愛着を感じて、暮らしそのものがとても楽しくなりました。

私のものづくり。彫り進みと額装

 木版画を始めて2年半になります。私は一枚の板を版木として彫っては刷り、おなじ版木をまた彫っては刷るという"彫り進み"という特殊な方法が特に好きで、この手法で作品の製作をしています。
 "彫り進み"は、決して後戻りが出来ないものづくりです。私がこの手法を選んだのは、完成した作品を思い描いて、そこに至る設計図を考え、計算するおもしろさを感じたから。そして、後戻りの出来ないスリリングなものづくりに魅了されたからかもしれません。職人になりたくて、デジタルではちょっとつまらない私にとって、彫り進みという手法は、とてもいい手応えを与えてくれました。
 そしてもう1つ、私の作品の特色でもある"額装"についてお話しします。
 私が手がけているのは、フランス額装の基本的なテクニックのもの。一つ一つの作品の様子を見ながら、お渡ししたい方がいればその方の好みを想像しながら、額装をしています。
 版画が仕上がった後、作品を額装すると、その作品を擬人化したくなるくらいの強い愛着がわきます。自分の子供に洋服をあつらえたような気持ちです。額装をするのは、作品が住まいの中に溶け込んで欲しいと思うから。高級感がでる額装はしないで、自分が家で飾りたいと思うような最小限の額装を心がけています。

今とこれから

 今の作品づくりは、ものすごくプライベートなものを作っている感覚です。"贈り物のようなもの"を作っているという気持ちが常にあります。
 個人的に、誰かにあげたいものを作っていて、それに共感してくださる方に少しだけ買っていただいている、という感じでしょうか。1作品について6枚程度しか刷らないのも、そういう想い。作業の集中力がそのくらいしか続かないから、ということもありますが(笑)。
 これからも同じようなものづくりをしているかもしれませんが、最近、デッサンする中で見つける線や色、抽象的なものがおもしろくなってきました。椅子や机や洋服なんかが、すごくおもしろいんです。もしかしたら、もっと抽象的なものも描くようになるのかもしれませんね。
 締め切りのある仕事はきちんと片付けて、子どもたちの幼稚園の送り迎えの間の朝9時半から夕方4時までの時間に、自分が楽しんで作品を作って、気持ちよく仕上げることを日々心がけています。
 作品が出来上がると一番最初に目にするのは子どもたち。大抵は「かわいい〜」と言ってくれますが、たまに「ちょっと、これはどうかな〜?」とか言われると、「どうしたらもっと素敵になる?」とおやつを食べながら真顔でアドバイスを求めたり(笑)。頼っています。




iMariko Iwauchi

プロフィール

イワウチマリコ(日々図案室 主宰)

spoon
1998年 大阪樟蔭女子大学卒業
1998年〜2000年 和陶器の卸会社の企画室にて勤務
2000年〜2003年 飲食店向けのデコレーターとして勤務
2003年〜2009年 グラフィック・ウェブ関連のオペレーターとして勤務
2008年 フランス額装を習い始める
2010年 フリーランスとして活動を開始
2011年 「日々堂図案室 図案展1」(谷町 日音色にて)
  第4回onsa出品(itohenにて)
2013年 倍野「空中山荘」にて木版画を習い始める
2014年 個展「日々堂図案室 図案展2」(初芝 カークンカフェにて)
  第7回onsa出品(ソーイングギャラリーにて)
2015年 5月ミニ展示「緑の生活用品展」(昭和町 ギャラリーspinにて)
  6月株式会社OpenFactory 主催クッションファブリックコンペ参加
  第8回onsa出品(hitotoにて)
  第100回二科展 デザイン部 準入選