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石田麗紅型作品展「空、駆ける」 開催までのこと


3月21日の初日から、もう5日が経ちました。慌ただしく手探りで準備を続けた日々も、会期が近づいてくるといつものことながらドタバタになってしまいました。でも、染色家の石田麗を世に出したいという気持ちは、私でも4年くらい、彼女を育てた師匠や大学の先生方、仲間たちはもっと長い年月の願いであっただろうと思います。

vowのような小さく名も無い展示会場では、作品たちの全てを味わっていただ国は力あ不足だと思いますが、店頭、そして頭上の鯉のぼりや、伝統工芸の紅型の技術を駆使した染色作品の美しさ、現代のセンスなど、少しでも感じていただけたら本当に嬉しく思います。

今、私が知っているのは本当に狭い世界のことではありますが、伝統工芸や美術に携わり、自分のものづくりを続ける若手の人たちは、皆色々な意味で苦労し、努力し、でも厳しい暮らしの中でも作ることを続けています。
石田さんも正にその一人。根気よく、手を抜かず、でも模倣だけではない独自のアートの世界を持っている彼女は、その作品とともにきっとこれから、もっともっと広く高く空を駆けていくのだろうと、私も仲間たちも信じています。


千歳町を訪ねて

大分県豊後大野市千歳町。「石田麗ちとせ染工房」の目の前は、なだらかに広がる田畑や緑豊かな里山が形づくるまあるい景色が広がっていた。

撮影のために鯉のぼりをあげていると、まるで見張るようにやってくるトンビやたくさんの鳥の声が大きく響く広くて高い空。

自然の風を孕んで、鯉のぼりは本当に幸せそうだった。

工房のテーブルには素朴なおやつがいっぱい。美味しい果物や手作りのお料理、新鮮な野菜、目の前の畑で採れた麦で作られた強力な麦焼酎・・・。笑顔で歓待してくれる石田麗さんのご家族とは、初めて会ったような気がしなかった。寒い季節だったけれど、工房の中はなんだかとても温かだった。

今回の撮影に力を貸してくれたカメラマンの大西二士男さんは、石田さんの作品が生きる場所を、大阪にいる時とは違った視点でたくさん見つけてくれた。愛情ある写真に感謝すると同時に、この地のパワーのようなものも感じた。

石田麗さんは、沖縄の伝統工芸の染色「紅型」を戦後復興させた紅型作家として知られる 城間栄喜氏のご子息 城間栄順氏に師事。紅型独特の型彫りや色彩、染めなどを経験し、修行を重ね、確かな技術を習得しました。その後、沖縄県立芸術大学で非常勤講師として勤務し、幅広い経験を積んで今日に至っています。

いつも意欲的で手間を惜しまず、誰とも違う自由なものづくりは、鯉のぼりをはじめとする、ユニークで美しい作品を次々に世の中に発信しています。

皆様、お忙しい3月後半の会期ではありますが、ぜひぜひ足をお運びいただき、千歳の魅力、石田麗の人としての魅力、そして大分・千歳町で生まれた新しくて自由な紅型の魅力を、ぜひ大阪でご体感ください

心よりお待ちしております。          vow’s space+cafe 平岡京子

石田 麗 紅型作品展「空、駆ける」3月21日春分の日スタート!

 
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ちとせ染工房から  

私は沖縄で13年間、紅型を中心とした染めを学び、2012年の夏に生まれ育った大分へ帰ってきました。

豊後大野市千歳を工房の場所に決めたのは、私の曽祖父と祖父、祖母がここで暮らしていたからです。古くて小さいながらも、この祖父母たちの家で染めをやっていくことが私の夢でした。

沖縄から帰ってきて、あらためて千歳を見ると、ここは魅力的な素材が溢れています。

夏のおわりの涼しい風に乗って甘い香りを運んでくれるクズの花。

田んぼの畦道を輝く青で彩るツユクサ。

秋の田畑に広がる波は豊かな実りの稲穂とハトムギ。

寒い季節の山道にユニークな形を拵えるネムの実。

川面いっぱいに夕日を浴びて静かにながれる茜川。

そしてここには、私が子どもの頃から大好きだった“鯉のぼり”が生き生きと泳ぐ広い空があります。

毎日スケッチする手が追いつかないほどなのですが、幸せなことに、ここには穏やかな時間がたっぷりとあります。これから一つ一つの素材を描いて、型を彫り、糊を置いて・・・、この場所だからこその新しく魅力的な図案、そして紅型を生み出していきたいと思っています。

初めての大阪での作品展に向けて、今、全力で作品を染めています。

皆様のご来場を心よりお待ちしております。

                                                  染色作家  石田 麗

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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profile

石田麗 Rei Ishida

沖縄県立芸術大学で染めを学ぶ。

平成15年〜24年 沖縄県那覇市首里、城間紅型工房にて城間栄順氏に師事。

平成20年〜23年 沖縄県立芸術大学に非常勤講師として勤務。

平成24年 帰郷、大分県豊後大野市千歳町に「石田麗ちとせ染工房」を開設。

平成27年 NHK文化センター大分教室にて講座を担当。

 

沖縄県立芸術大学大学院 染グループ展『花色時』今に生きる紅型と作家たち

30年ほど前、まだ出版社でアルバイトをしていた頃、戦後の沖縄で完全に途絶えていた伝統の染色『紅型(びんがた)』を復興させた 城間栄喜氏の遺作展のお手伝いをしたのが、私と沖縄の初めての出会いでした。その頃はまだ編集者でもライターでもなく、ただ肉体労働専門のスタッフで、美しい着物や帯の飾られる空間で汗を流しながら働き、自分がいかに貴重なものに触れているかも、狂気とも呼ばれるほどの情熱で沖縄の伝統工芸「紅型」を復興させた城間栄喜氏と、その後を継いだご子息の栄順氏の人生についても何も思い及びませんでした。

結婚を機に東京を離れましたが、出版社から沖縄の染織に関する本が出版されるたびに声をかけていただいて、大阪で出来る原稿や広報のお手伝いをするようになっていました。今から十数年前には、この仕事は先輩たちの手を離れて私の仲間たちの世代が担うようになり、東京の友人たちを中心に、私も沖縄の工房に通い、お話を聞き、撮影を行い、ものをつくる人たちに触れる機会を得ました。

そこで、30年前に初めてアルバイトとしてお手伝いした仕事で出会い、いろいろと助けていただいた、美しいオリジナルの紅型作品をつくる染色家 渡名喜はるみさんと再会しました。当時はイッセイ・ミヤケで活躍後、城間栄順氏の工房で紅型を学んでいたのですが、彼女は今、沖縄県立大学・大学院の教授として、伝統の染色の技術だけではなく、広く実践的なものづくりと生業として染色と向き合う姿勢を熱く指導しています。

芸術大学で大学院まで学んで高い技術を習得しても、名のある工房で技術を磨いても、沖縄に根ざしてものづくりで生計を立てていく事は生易しいことではありません。社会に出てから挫折し、ものづくりを諦める若い作家たちもいます。

渡名喜教授は、そういう事態を何よりも憂いていて、「学校を離れたらつくれない、そんな風に思い込まないでほしい」のだと言います。彼女の教え子たちは皆、一生懸命に自分の道を切り開こうとコンテストなどにも積極的に参加して、多くの受賞作を世に送り出しています。

2年前、vowのような小さくて何の権威もない場所で、大学院を卒業する学生たちの作品展を開催したのは、巣立っていく学生たちに、自分自身で作品に価格を付け、作品をお客さまに手渡す経験をさせたいという渡名喜教授の思いからでした。

そして3年目の今年は、11月7日〜18日まで、『花色時』と題して、芸術大学・大学院を卒業して染色のプロとなった若い作家たち10名の、クオリティの高い花色を中心にした作品がたくさん並びます。作家本人も交代でvowを訪れてくれることになっています。作品を前にして、気軽に言葉を交わしていただけたらと思います。

彼女たちは、沖縄県が推進している、琉球王国文化遺産集積・再興事業「手わざを探る 王国の美」という事業の中で、芸大が沖縄県からの依頼を受けて、時代の変遷や戦争の中で海外に流出した沖縄の資産となる工芸品を復元するために招集した実力のあるメンバーと教授、准教授の皆さんです。

沖縄の工藝の今を体感できる作家たちの瑞々しい作品を、大阪でご覧いただく機会はあまりないことだと思います。vowは小さな場所ですが、瑞々しい今に生きる作品とそのつくり手たちに出会っていただけますように愛情込めて展示をしたいと思っています。是非、ご高覧を賜りますようお願い致します。vow’s space+cafe 平岡京子

 

沖縄県立芸術大学・大学院 染グループ展『花色時』について

沖縄県立芸術大学・大学院 工芸専攻 染分野では、平成29年、30年と沖縄県立博物館から、古紅型の復元制作を委託されるという機会に恵まれました。

復元する衣裳は、遠くベルリン国立民族学博物館に所蔵される「木綿花色地霞枝垂桜文様紅型袷衣裳」。これは、長く染色の世界で幻となりつつあった『花色地紅型』を深く知るための好機でもありました。

沖縄の伝統工芸である紅型では、臙脂虫(ラックダイ・通称ラック)から抽出された赤系の色材を「燕脂」と呼び、その赤系色材で地色を染めた衣裳を、「花色地衣裳」と呼びます。

この作品の復元に際し、同大学・大学院 染分野は、沖縄に根ざし染色作品の制作を続ける、卒業生・研究室在学生・教員から成る11名の芸大チームを組織しました。

この芸大チームが制作に取り組んだ「木綿花色地霞枝垂桜文様紅型袷衣裳」は、袷の表も裏も、地色はまさに臙脂からとれるピンク色で染め上げなくては再現制作を行ったとは言えない、大変に難しい衣裳でした。地色に使用する綿燕脂は、研究段階では早くから古紅型の重要な色材として認識されながらも、現在では入手が困難な素材。芸大チームでは、材料のラックから色素を抽出し、発色させ、保存版サンプル綿の制作までを研究資料として残すことに成功しました。

再現する衣裳は遠くベルリンに有ります。チームのメンバーは、少ない資料と県内類似品の化学分析を基に、平成29年・30年の夏の2ヶ月間、作品の試作と議論を繰り返す工程を続け、本制作に打ち込みました。

それは、再現する作品のデザインや色構成を研究することはもちろん、紅型が琉球王国の上流階級の衣裳として完成するまでの琉球の地理的状況を踏まえた歴史や、古紅型のデザイン性や技法の広さに驚嘆し、感服した日々でもありました。そして、その全ての工程は、当時の工人たちに思いを馳せ、共にいることを感じ、時間を共有した、ほかにはない貴重な経験でした。

今展は、芸大制作チームのメンバーが共有した2年間の夏の時間を、それぞれが自己の作品に綴じ込め、時代を越えて現代の私たちの暮らしに生きるものとして送り届けるグループ展です。10人のメンバーそれぞれが、現代の目で捉えて表現する花色を是非ご高覧ください。

綿燕脂研究・指導:沓名弘美(絵画技法材料研究家・日本画家)

※綿燕脂とは

花色地の元となる「綿臙脂(わたえんじ)」は、多量の燕脂を含ませて乾燥させた綿のこと。古くは赤色の化粧品として珍重され、時期は定かではないが、王族の衣裳を彩る貴重な色材として琉球に入った。古紅型の辰砂(朱)・石黄とともに、臙脂色(色いりますか?)は、ブキ・ヒグ・桔梗・紫と呼ばれる紅型独特の色彩感覚を印象付ける色の基盤となっている。

 

 

『花色時』

会期:2018年11月7日(水)〜11月18日(日)

12・13日はお休み(1階ほんま食堂は17日もお休みをいただきます)

会場:vow’s space+cafe(ほんま食堂) 

時間:11時〜18時 (ほんま食堂は11時30分より)

入場無料 作品は、一部を除き即売致します。一部を除きカード使用可

大阪市阿倍野区昭和町5-2-21  TEL:06-7175-0665

地下鉄御堂筋線 西田辺駅1番出口・JR阪和線 南田辺駅、両駅より徒歩約5分

主催:沖縄県立芸術大学美術工芸学部 染織研究室内『花色時』実行委員会